「あぶれ手当」を悪用した不正受給

新聞紙上で『雇用保険日雇労働求職者給付金』(いわゆる『あぶれ手当』)を悪用した大規模な不正受給事件があったことが報じられていました。

何でも、詐欺グループが、架空の建設会社を設立し、日雇い労働者(雇用保険の日雇労働被保険者)が職に就けなかった場合に国から支給される日雇労働求職者給付金(『あぶれ手当』)を不正受給していたとして、奈良県警に逮捕、起訴されたとのことです。
これには、あいりん地区(大阪市西成区)の日雇い労働者ら延べ約500人を抱き込んで、1億円を超える規模の給付金をだまし取っていたということでした。

一般の方は、日雇い労働者の雇用保険給付金というのがどういったものかというのを知る機会はないと思いますが、かなり優遇された制度となっているのです。

それがどのようなものか、簡単にご説明したいと思います。
『あぶれ手当』と呼ばれるその名のとおり、日雇い労働者が『その日』の仕事を探して求職活動をしたが仕事にあぶれて『その日』の賃金を得ることができなかった場合に手当が受けられるということで、俗に『あぶれ手当』と呼ばれるようになったのが『雇用保険日雇労働求職者給付金』なのです。
もちろん、日雇い労働者であるだけでこの給付金を受けることができるわけではありません。

受給するためには、その受給資格を得る必要があります。

この受給資格の要件とは、日雇労働被保険者が失業した場合において、その失業の日の属する月の前2月間に、その者について印紙保険料が通算して26日分以上納付されていることとなっています。
つまり、失業の認定を受ける日の属する月の前2か月間に日雇労働者として26日以上仕事をしていることが条件ということです。
これを証明するためには、日雇い労働者を雇用する事業主から『雇用保険印紙』を日雇労働被保険者手帳に貼付してもらい、これに事業主の届出印で割り印をしてもらうことが必要となります

『雇用保険印紙』と『日雇労働求職者給付金の日額』は、労働者の賃金により次のように3種類に分類されています。
①第1級印紙保険料:176円→支給額:日額7,500円
②第2級印紙保険料:146円→支給額:日額6,200円
③第3級印紙保険料:96円→支給額:日額4,100円

これを前2月間で26枚以上(最大44枚以上)貼付してもらうことによって、支給日数が13日分から17日分の給付金を受ける権利を得ることができるわけです。

計算すると最大の17日分を受給する場合には、127,500円を受給することができるのですが、雇用保険印紙の額は7,744円(176円×44日)しか掛からないという計算になります。
つまり、12万円足らずの額が『儲け』となるわけです。(あくまでも理論値ですが・・・)

今回の事件では、この制度を悪用し、実際には雇用されていないにもかかわらず、雇い入れたと架空の事業主が証明する(これは、日雇労働被保険者手帳に印紙を貼って割り印すれば済むことですから極めて簡単です。)ことで、この『儲け』をだまし取ったということのようです。
延べ500人の日雇い労働者には、2~3万円の小遣いを渡して協力者に仕立て上げたという訳でしょう。

もちろん国もこの制度が悪用されやすいということは、十分に分かっていますので、不正ができないよう管理体制を強化しています。
例えば、事業主が『雇用保険印紙』を購入する際には、『雇用保険印紙購入通帳』の提示が必要で、この通帳の交付を受けた者でなければ購入自体ができない決まりになっています。
また、印紙を転売した場合も処罰の対象になるという規定が定められています。

以上のように制度の脆弱性を補うために、日雇い労働者を使用する事業所の設立の場合にはそれなりに厳しいチェックが為されているものと思っておりましたが、今回の詐欺グループの場合は、その事業所の現地調査でも、これが架空事務所であるということを見破ることが出来なかったようです。

この制度を良く知っている分野の人間であれば、この『あぶれ手当』の不正受給方法は、かなり使い古された手口であることは常識だと思います。

しかし、実際の受給申請(失業の認定)の窓口では、雇用保険印紙が正しく貼付されている限り、支給を拒否できるものではありませんので、不正受給を見破ることは困難だったと思われます。

この詐欺事件は、雇用保険適用事業所として認定し、雇用保険印紙購入通帳を交付してしまったことについてのチェック体制が甘かったことに起因しているように思われますので、今後この種類の詐欺を防止するためには、チェック体制を厳しくすることは避けられないことと思われます。

また、この詐欺グループが、『架空事業所』の所轄公共職業安定所をあいりん地区を擁する大阪ではなく、奈良県の地方都市を選んだのもチェック体制の甘さを突いたものなのかもしれませんね。

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